もう数ヶ月前のことなんですが、ある方から自宅で取れたコブミカンの葉をたくさんいただきました。
コブミカンは巨大化した山椒のような実をつける植物で、香りも山椒によく似ています。日本では山椒の方が定着しているせいかあまり見かけることがありませんが、東南アジアでは料理の香り付けとしてその葉や皮が使われています。
そんなコブミカンの香りで僕が最初に思いつくのが、タイのゲーンキャオワーン、いわゆるグリーンカレーです。
昔々、南青山の小さなデザイン事務所で働いていた頃。お昼になると近くにアジアンランチというアジア料理専門のキッチンカーがやってきて、僕はいつもそこでお弁当を買っていました。
いくつもある日替わりのおかずから3品を自分でチョイスできるナイスなお弁当屋さんなのですが、その中でもいちばんテンションの上がるおかずがグリーンカレー。その頃はまだ表参道のティーヌンも無かったし、仕事の合間にタイの香りを感じることに非日常感が強かったからだと思います。お弁当の大盛のご飯にたっぷりかけてもらって近くの広場へ。
南青山にはかつて国家公務員専用の公営住宅が建っていて、その前にベンチのあるちょっとした広場がありました。お昼時になると、そこに英字新聞を小脇に挟んだ外国人とか、アパレルの店員さんとか、そんな人たちがコーヒーやサンドイッチ片手に集まってきていた。そんな無闇にオシャレっぽい空間の中にグリーンカレー入りのお弁当を持ち込んで食べるのが、僕のお昼の楽しみ方でした。
そういう生活をしばらくしていたおかげで、僕にとってグリーンカレーは少し特別な料理になったのです。
ところで、グリーンカレーには日本のカレールーに相当するようなカレーペーストが売られています。Kaldiとかでよく見るこんなのです。
これにココナッツミルクを足せば、誰でも簡単に美味しいグリーンカレーを作れるのですが、弱点は辛さを調整できないこと(もちろん辛い方向には調整できますけど)。
グリーンカレーって実はかなり辛いんですよね。ココナッツミルクのおかげであまり感じませんが、カレー店によくある5段階の唐辛子マークでいうと4つくらいの辛さはあります。
僕は辛いものも大好きなのですが、我が家には幼児もいるのでなかなか食卓には出しづらい。でも食べたい時は食べたい。どうしても食べたい。どうしてもだ!
それなら、せっかくコブミカンの葉があるのだし唐辛子を全く使わないグリーンカレーを試作してみよう。そう思い立ったのが去年の12月。
それで作ってみたら、これが結構美味しかったのですよ。
ココナッツミルクとレモングラス、コブミカンの葉でかなり本格的なタイカレー風味なのに、辛味はほぼ完全にゼロ。
それから何度か試作を重ねて、これならカレーの王子さまから発売されてもおかしくないんじゃないか?と密かに自負する本格甘口カレーができました。
かなりマニアックな需要だとは思いますが、体質的に辛い物が全然食べられないという方もいらっしゃいますし、辛くないことで応用が利いたり、意外なところで誰かのお役に立つかもしれないのでここにレシピを残しておきます。
唐辛子を使わない甘口グリーンカレー
◆材料(2~3人分)
- 肉の下味
- 鶏もも肉・・・300g
- ココナッツミルク・・・100ml(400ml缶の1/4)
- ハーブソルト・・・小さじ1
- グリーンペースト
- 生姜・・・3cmくらい
- にんにく・・・1~2かけ
- キウイ・・・中1コ
- コリアンダー(生)・・・1~2株
- レモングラスペースト・・・大さじ1
- コリアンダー(粉)・・・小さじ1
- クミン(粉)・・・小さじ1
- 白胡椒(粉)・・・小さじ1/2
- カピ・・・小さじ1~2
- カレー
- ピーマン・・・3コ
- 筍の水煮・・・1つ
- ココナッツミルク・・・300ml(400ml缶の3/4)
- 水・・・200cc
- 砂糖・・・大さじ2
- 中華スープの素・・・大さじ1.5
- ナンプラー・・・大さじ1.5
- コブミカンの葉・・・5枚くらい
- ハーブソルト・・・小さじ1
※生のコリアンダー(パクチー)はお店によって株の大きさが全然違うので、お好みで調整してください。葉物として売られている三つ葉くらいの大きさのものなら1株、ハーブコーナーにある小さいパックに入ったものなら2株くらいが目安です。パクチーの香りが苦手な方はバジルで代用できます。
※コリアンダーパウダー、クミンパウダー、白胡椒は、それぞれ粒のものがあればフライパンで加熱して香りを出してから挽くとより本格的になります。逆に白胡椒も辛いと感じる方は抜いてください。
※カピは塩漬けした海老を発酵させた調味料で、ネット通販やタイ食材店で購入できます。用意するのが面倒な場合は刻んだイカの塩辛や鰹の酒盗でも代用できます。
※レモングラスをペーストでなく生のものを使う場合は、グリーンペーストを作る際に刻んで加えてください。乾燥ものを使う場合はカレーを煮込む際に一緒に入れると良いでしょう。
◆作り方
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鶏肉を一口大に切ってハーブソルト、ココナッツミルク(400ml缶の1/4くらい)と一緒に密封袋に入れ、なるべく空気を抜いてしばらく寝かせておく。
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その間にグリーンペーストの材料をすり潰す。タイのご家庭にはクロックヒンという乳鉢のような石のすり鉢があるそうなのですが(ネット通販では2千円から数万円で販売されています)、キウイを入れることでフードプロセッサが回せるのでそれで代用します。
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フライパンにサラダ油(分量外)をひいて熱し、ピーマンと筍を入れて強火で軽く焼き色がつくまで炒める。
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寝かしておいた鶏肉をココナッツミルクごと入れる。作っておいたペーストも加えて1、2分煮詰める。後で煮込むので、この時点では肉に火を通すことは考えなくてOK。
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残りのココナッツミルク、水、砂糖、中華スープの素、ナンプラー、コブミカンの葉を入れ、蓋をしてたまに混ぜながら15分ほど弱火で煮込む。色がまだ十分に出ていないようなら蓋を取って弱火のままもう5分ほど煮詰めてください。
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十分に色が出たら味を見て、ハーブソルトで調整。もしコクが足らないと思ったら砂糖大さじ1(分量外)を加えてください。コブミカンの葉はこの時点で取り除いても良いです。
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お皿にご飯を粧い、盛り付けて完成。
材料の中でとにかく必須なのは焼いたピーマンです。これが青唐辛子の代わりになって、グリーンカレーをグリーンにしてくれます。
あと筍は水煮で良いです。水煮が持つ独特の匂いと酸味が嫌いという方もいらっしゃると思いますが、香りの強いグリーンカレーでは匂いはおろか、酸味などはむしろ活きている気がします。
ちなみにこの日は鯵のたたきにゴマ油と醤油とコチュジャンをそれぞれ小さじ1ずつ和えたものを添えました。
辛いのが大丈夫な方は、グリーンカレーに唐辛子を使わない分、こうした少し辛味のある副菜を足すと美味しくいただけます。
奮発してジャスミンライスを炊けばより本格的な仕上がりに。
「ジャスミンライスなんてどこで売ってるんだよ!」と思われるかもしれませんが、心配ありません。
ココナッツミルク、カピ、レモングラスペースト、コブミカンの葉(バイマクルー)、それにジャスミンライスも、このレシピの材料は全てAmazonで購入できます。
一通り揃えてしまえばいつでも簡単に作れますし、緑の食材を抜いて赤パプリカを加えればレッドカレー(ゲーンペッ)、黄パプリカとターメリックを加えればイエローカレー(ゲーンルアン)、赤パプリカとタマリンドを加えればオレンジカレー(ゲーンソム)など様々な甘口カレーに応用が利きます。
もちろん、唐辛子を加えた普通のタイカレーも。
というわけで、休みの日のおもてなしにちょっと贅沢な甘口タイカレーはいかがでしょう。余ったらカレーパスタやカレーうどんにしても美味しいですよ。