もうずいぶん前になるが、今年は久しぶりに北海道に行った。
今の職場には、いわゆる社員旅行の代わりとして、前年度の全体業績に応じて社員の交流企画に補助を出す制度がある。昨年度はそれなりに業績が良かったので、それなりの金額が支給されることになった。
そんな中、出ていた企画の一つが週末を利用した一泊二日の北海道小旅行で、参加者の一人が僕を誘ってくれたので、それにのることにした。
旅の目的は、星野リゾート・トマムで「雲海」を見ること。
場所は北海道の中心から少し南寄り、南富良野のさらに山ひとつ南側にある
当初はどこか近くのコテージでも借りて泊まろうかという話だったのだけど、なんと予算内で星野リゾートのタワーホテルにも泊まれることがわかり、参加者のテンションはうなぎのぼりだった。
とはいえ豪遊できるほどの余裕はないので、旅費は節約しなくてはならない。一泊二日の短い時間をめいっぱい使う意味もあり、当日は羽田を朝6時50分の便で発つことになった。
我が家は空港までそれなりに距離があるので、6時50分の便となると出発は始発電車ということになる。まあ一泊二日なのでたいした荷物はいらないだろうと、小さめの登山リュックに替えの下着と靴下、あと寒くなった時用の長袖を詰めて夜明け前に家を出た。
駅に着いてもまだ空は白み始めたばかり。釣りや登山以外でこんなに早起きすることもなかなかない。
空港には予定通り着き、保安チェックを済ませて搭乗口へ向かう。朝日が眩しかった。
新千歳空港まではおよそ1時間半。機内には小説を持ち込んでいたのだけど、ほとんどの時間は「翼の王国」を読んでいた。スープカリーせんべいが美味しそうだった。
海の幸、ラーメン、ジンギスカン、ザンギ、スープカレー。北海道には美味しいものがたくさんある。一泊二日の短い旅の中で、はたしてどれだけ食べられるだろうか。と、そんなことを考えていた。
千歳水族館で鮭の群れに出会う
小雨の降る新千歳空港。
でもこれは想定内。雨が降ることは前日の天気予報でわかっていたので、屋内で楽しめる場所を中心に旅程が組み直されていた。まずはレンタカーを借りて千歳市内にある道の駅、サーモンパークへ向かう。
レンタカー屋さんの自販機で見つけた北海道限定のいろはす。
最初の目的地、サーモンパーク千歳は千歳市と小樽市を結ぶ国道沿いにある道の駅。附近を流れる千歳川は鮭の遡上が有名で、そのため道の駅も鮭をテーマにしているらしい。この夏、リニューアルオープンしたばかりだという。
お腹も空いたし、着いたらザンギでも食べるか!と意気込んでいたのだが、この時点でまだ朝9時。サーモンパークはようやく営業時間を迎えたばかりで、館内の店舗もまだ開店準備を整えている段階だった。とても朝ごはんを買い食いできる雰囲気ではない。
うろうろしていると、販促コーナーのおばちゃんから声をかけられる。
「お兄さん、これ食べてって!」
そう言って渡されたのは小さな昆布おにぎりと海苔のお味噌汁。
美味かった。人が作ってくれるおにぎりや味噌汁はなんでこんなに美味いのか。
腹ごしらえとしてはちょっと微妙な量だけど、このままここで待っていても時間がもったいないので、道の駅に併設された千歳水族館へ。
まず出迎えてくれたのは鮭や鱒の大群だった。さすがはサーモンパーク。
海に出るとベニザケ、海に出ないとヒメマス。
とはいえ、館内全部が鮭ばかりというわけではない。普通の水棲生物も展示されていて、規模はそれほど大きくないながら要点をついた展示がされている。
川をテーマにしているせいか、淡水の生き物が多かった気がする。
飼育員さんの人柄が見えるような、手作り感のある解説が楽しい。
ドクターフィッシュやエイに触れるふれあいコーナーもある。
終盤に登場するのは、千歳水族館の目玉コンテンツ「水中観察ゾーン」。千歳川の川底をガラス越しに見られるコーナーだ。
字面だけだとフーンって感じかもしれないが、実際に目にすると、川の流れが想像以上に早くてダイナミック。めちゃくちゃ面白い。
時期もちょうど良かったのかもしれない。ドリフトしながらガラスの前に横付けして休憩し、また川上を目指して遡上していく鮭の群れをたくさん見られた。自然の生態をそのまま観察できるのは、水槽の魚を眺めるのとは全く違った体験だった。
さて、予想以上に盛り上がったせいで余計にお腹が空いた。
夢中になって見ている内に1時間半くらい経ち、バスの団体客も訪れサーモンパークの店舗も開店していたので、とりあえず次の目的地を目指す前に、お腹に入れられるものを探すことにした。
スープカレーで有名な札幌・奥芝商店謹製のチーズハットグ。
海老だしを混ぜた生地でフランクは千歳ハムのものだそうだ。まあ間違いない。
こちらはミルキーベルのプレミアムタルト。
焼きタルトなのに中はトロットロでブルーチーズ入り。美味かったなぁ‥‥。
というわけで多少の腹ごしらえができたところで、次なる目的地、小樽港へ。
漁業と貿易の街、小樽
千歳から小樽港までは車でおよそ75分。
さすがは人気観光地、普通の土日でもなかなかの人出。特に外国人観光客が多い。
初めて来たはずなのに、街並みにすごく既視感があるのはなぜだろうと思って記憶を辿ったら、ああ、これブラタモリの記憶だ。
タモリ「小樽は初めて」
「昔、小樽に来て『この街には何もない』と言った有名な方がいるんですが」
タモリ「え、俺!?」
というくだりに笑った記憶がある。
もう4年も前のことだなんて、時が過ぎるのは早い。
個人的には石造りの倉庫とかをゆっくり見たかったけれど、今回はグループで来ているのでブラkazhはまたの機会に。
あと、この日はちょうど小樽アニメパーティーの開催日だったらしく、レイヤーさんをたくさん見かけた。ただ、今回のツアー参加者にその手の話題をわかりそうな人がいなかったので、「へえ、なんかイベントでもあるんですかね」程度に留めておいた。
さて、時刻は正午をだいぶ回ったところ。いよいよもって腹ぺこなので、小樽は回転寿司でも美味いという噂が本当か確かめるべく、手近な回転寿司へ。
ここからは難しいことは言いっこなし。写真でお楽しみください。
お腹いっぱい夢いっぱい。
腹ごなしの小樽観光でも生メロンジュースやら生キャラメルソフトやら。
行ったのは9月なんですが、なんか異様に暑かったんですよね。なので全編にわたって冷たいものばかり食べてます。
美しい小樽運河。昔は汚くて町の恥部とまで云われていた(ブラタモリ知識)なんて、とても信じられない。
さて、街巡りをしているうちに15時を過ぎたので、そろそろ宿泊地であるトマムに向けて出発することに。
苫鵡<トマム>リゾートで非日常にひたる
札樽自動車道と道東自動車道を走りに走って、
PAといってもかなりの山の中。とても長閑な雰囲気で、ご当地っぽい軽食や地元野菜が売られていた。
それからまた20分ほど走って、ついに見えてきた巨大な塔。
並行世界を受信する施設でしょうか?
いいえ、あれこそが目的地の星野リゾート・トマムです。
ロビー階は綺麗に整備されていて、高級感のある造り。
ぜんぜん人いないじゃん!と思うかもしれませんが、実際はなかなかの盛況ぶり。写真はなるべく人のいない隙を見計らって撮っています。
下から見上げるザ・タワー。
部屋からの眺めはこんな感じ。
「アニメっぽい」という表現が適切かはわからないけれど、“異質な何か”の中に自分が身を置いている感覚はなんとも言えず不思議な気分だった。黄昏とも相まって、非日常感が盛り上がる。
よくもまあ、こんなモノを建てたものです。
トマム・ザ・タワーの歴史は意外と古く、リゾート地としてスキー場などがオープンしたのが1983年、超高層ホテル“ザ・タワー”が竣工したのが1989年。つまり完全なるバブルの産物。
観光資源が冬場のスキーしかなかったトマムリゾートは、バブル経済の崩壊に伴って敢えなく資金難に陥り、1998年に運営母体が自己破産。その後いろいろあって星野リゾートの手に渡り、再建されて今に至るそうです。
山間の風景の中に36階建ての高層タワーがそびえ立つ脈絡の無さは目の前にすると実に“異様”で、真面目な話、新海誠監督の「雲のむこう、約束の場所」に登場する象徴的な塔はここから着想を得たんじゃないかと勝手に思っています。位置的にもほぼ合っているし。
いつか必ず行くんだ。
国境の向こう、見知らぬ北海道にそびえる、あの、巨大な塔まで──。
さて、長い移動の疲れを癒やしつつ、部屋で少し滞在計画を練り、まずは夕飯へ。
冬場の積雪を考慮してか、ほぼ全ての施設が屋根付きの通路で繋がった造りになっている。
尾瀬の木道なんかもそうだけど、こうして地に足をつけずに移動すると、なんともいえない不思議な感覚になる。その土地にいるのに本当はいない気がするというか、自分が遠隔で見ている傍観者で周りが全部展示物に見えるというか。僕だけかな。
高級レストランからAFURIまで様々な店が軒を連ねるホタルストリート。
スキーシーズンにはスキー板やボードを履いたままで利用できるのだという。
ここは“地に足をつけて”歩くのだが、地面にはやわらかいウッドチップが敷き詰められていて、やはりどこか気持ちがふわふわした。
ホタルストリートの奥まったところにある、イタリアンレストランALTEZZA。
各テーブルに鉄板があり、肉はそこで焼くスタイル。
食後、少し買い物をして部屋に戻ると、近くの山から打ち上げ花火が上がった。5分間くらいのショーでたいした数ではないのだが、贅沢な気分にはなる。この日は暖かかったこともあり、外で見ている宿泊客も大勢いた。
花火を見ながらの雲海ハイボール。なかなか良い気分。
さあ、ひとっ風呂といきたいところですが、大浴場・木林の湯へは施設内の循環バスに乗って10分くらいかかる。それでも、森を見ながら入る露天風呂は最高です。写真は撮っていないので公式サイトの方からどうぞ。
就寝前の時間帯はバス・施設共にとても混雑するのでご注意を(特に女湯は入場制限がかかっていた)。
霧に覆われた世界を俯瞰する楽しさ
さて、二日目の朝も初日と同じく4時過ぎに起床。
急いで暖かい服装に着替えてまたバスに乗り、朝もやの中をゴンドラ乗り場へ。
霧がかなり濃い。そしてまだ5時前だというのに、この行列。
それもそのはず、これぞトマムの名物「雲海」を見に行くための行列。これに行かないなら一体なんのためにトマムに来たんだと言っても過言ではないくらいで、宿泊客の多くが早起きして並びます。
グループ旅行なので行列はそんなに苦にならなかったけど、テーマパークなどで並ぶのが苦手な人にはちょっとツラいかも。1時間ほど待って、いよいよ山頂へ出発。
ゴンドラからリゾート方面を振り返るとこの通り。おお「雲海」だ。
そう、下界をサイレントヒル並みに覆っていた濃霧こそが「雲海」の正体。
夜間の放射冷却で生まれる霧が谷筋を流れて窪地にたまり、上から見ると雲のように見えるということらしい。公式にも解説があるけど、実際に見ていると霧が流れていくのでそれがよくわかる。
素晴らしく幻想的な景色。
言ってしまえば霧の名所は余所にもたくさんあるのだけれど、トマムの場合は図らずもザ・タワーという比較対象があるおかげで、写真でも窪地の広さとそこに溜まった霧のスケールが伝わってくるのが面白い。
スキー場のゴンドラを利用しているので新たな設備投資もほぼ要らず、一部、アクティビティ的な簡素な施設が作られているのみ。
それでも素晴らしい景色を目の前にすれば、十分に楽しい。事実、誰も来なかったオフシーズンのスキー場に年間14万人もの観光客を呼び込むことに成功しているのだから、素晴らしい発明だと思う。
残念ながら「雲海」は必ず見られるというわけではない(公式によると40%くらいの確率らしい)けれど、朝露に濡れた草花の中に身を置いて雄大な夜明けを眺めるだけでも登る価値はある。
ひとしきり楽しんでふもとに降りると、ちょうど朝食の時間。広い施設なので朝食を摂れる場所もいくつかあり、混雑度や好みに応じて利用できる。今回はチャペルの近くにあるお洒落なビュッフェダイニングへ。
ビュッフェスタイルなので好きな物を取り、デザートに名物だというフレンチトーストも確保。なかなか満足度は高かった。
楽しい時間はあっという間に過ぎる。何しろ一泊二日の弾丸旅行。食後に休憩したら星野リゾートにも別れを告げ、ここからは美瑛に移動して帰りの便まで観光地巡りだ。
心躍る美瑛の丘陵地帯
旅程を組み直した甲斐もあって(もともとは初日に美瑛に行くはずだった)、この日は晴天。ドライブにはもってこいの天気になった。
美瑛までは車で約1時間40分。窓を開けてザ・北海道という感じの景色を楽しむ。
何度も言うようだが、北海道の内陸部は広い。
美瑛町に着くと、そのまま観光スポットを目指す。
ケンとメリーの木。
ケンとメリーというのは昭和の昔、日産スカイラインのCMに登場した外国人二人組の名前。そんなわけで今でもここにはスカイラインオーナーが集う。
セブンスターの木。こちらはセブンスターの観光タバコパッケージに使われた木なのだそうだ。
他にもマイルドセブンの丘(マイルドセブンのCMのロケ地になった丘)とか、いろいろある。といっても、どれもリアルタイムには知らないので、そんなにピンとは来ない。
僕がいちばん感動したのは、セブンスターの木の目の前に広がっていた、この名もなき花畑。
Microsoftさん、この写真買ってくれませんか。Windows XPの壁紙になったのはカルフォルニアのワイン畑だったけど、次期Windowsの壁紙には美瑛の花畑をぜひ。
なんなら4Kデュアルディスプレイの背景にできる8089 x 2514の超ワイド写真もあります。
この規模の一面の花畑というと、関東圏だとひたち海浜公園のネモフィラ畑とかがあるけれど、ここは恐らく実用の畑というところがさらに美しい。
白金青い池。本当に青い。
人工池とも言われているけど、泥流を防ぐための堰堤にたまたま水がたまっただけで、意図的に作られた池というわけではないらしい。水没した樹木が真っ白になって立ち枯れている様はなかなか幻想的だ。
そして池も青いけど、そばを流れる美瑛川もなかなかに青い。
この青さは湧水に含まれる水酸化アルミニウムなどによる光の散乱によって生まれるらしい。
水酸化アルミニウムは紙の難燃加工に使われたり、同じく白い酸化チタンと一緒に化粧下地などに使われていたりする不溶性物質。そのキラキラした白い粉末が、水中の光を散乱させて青く見せているんじゃないか、ということだそうだ。
美瑛の牛乳とラムネフレーバーを混ぜた青い池ソフト。観光地ではとりあえず“いかにも”な食べ物にお金を落とす主義です。
数時間に及ぶ絵に描いたような観光を終え、最後は富良野のジンギスカン屋さんへ。
ジンギスカン未体験という若いメンバーがいたので、いろんな肉を頼んだ。
暑い暑いと言いながら屋外でジンギスカンを食べていたら、素敵なゲストが。トンボには詳しくないけど、たぶんノシメトンボ。
結構逃げずに止まっていてくれたので、いい写真が撮れた。
さあ、名残惜しいけど、もうそろそろ千歳に戻り、空港に向かう時間。
一泊二日の弾丸旅行としてはとても充実した旅だった。「雲海」も見られたし、美味しいものも食べたし、天気を読んだ旅程変更が上手くいったのも良かった。言うことないね、帰ろう、帰ろう。
車内はすっかり回想モードだったのだが‥‥。
iPhoneは二度震える
iPhoneのWalletにeチケットを入れていると、搭乗時間の前や搭乗時間の変更などが起こった時、プッシュ通知で知らせてくれる機能がある。
AmazonMusicで懐メロを流しながら盛り上がっていた時、ブブッとバイブが動作したので、帰りの便まであと何時間だよ的な通知かと思って何気なく開いた。
そこに表示されたeチケットを見て、恐らく僕の口はあんぐりと開いたと思う──。
‥‥け、欠航!?
実はこの時、東京には、猛烈な勢いの台風15号が接近していました。そこら中で木が倒れ、交通網が大混乱し、成田空港が陸の孤島と化したという、あの台風です。
金曜昼時点の進路予測では大丈夫な感じだったのですが、改めて見ると、まさに帰りの時間帯に関東直撃。
振替便を検索すると、明朝7:30の便しかないことが判明。
となると朝まで空港か‥‥休憩室あったっけ?その前に買い物は‥‥などと各自対策を練り、最終的には、空港に戻ったら速やかに着替えやおみやげを仕入れ、空港の温泉施設に場所を取って朝まで陣取ろうという結論に。
やれやれ、とんだトラブルではあるけれど、この程度ならまだ旅の醍醐味。
幸い、ピンチには強い大人ばかりだし、方針さえ決まればあとは行動あるのみだね。なんて和気藹々と盛り上がっていた、そんな矢先。
ん?またiPhoneが震えたぞ──。
よ、翌朝も欠航!??
さっき振替えてからまだ1時間も経ってないじゃないか‥‥!
この時、北海道は晴天だったので、全然実感が湧いていませんでしたが、羽田は既にかなりの混乱だったのでしょう。
さて、ここから再振替えできるのは、さらに遅い明日夕方の便。となると、もはや空港で過ごすというわけにもいかない。泊まるところを探さなければ。
若いメンバーのためになるべく安くあげようと、toribagoやbooking.comを使って探してみたりしたのですが、安いホテルにはなかなか空きがない。急がないと泊まるところが無くなるのでは、と余計に気が焦る。
そんな時、とある女性メンバーの一言で流れが変わりました。
「あのさ、みんなずっと一緒にいてお互い疲れてるし、こういう時だからこそ、ちゃんとしたホテルでひとりひとり個室を取ってゆっくりしない?」
‥‥確かに。仲良くやってきたとはいえ、僕らはあくまで同僚。つきっきりで一緒に行動していれば、知らず知らず精神的な疲れがたまって当たり前。
それに、欠航に巻き込まれた人は皆「近いとこ!」「安いとこ!」という想いで宿探しに動くわけで、まあまあなグレードのホテルを見ればまだ結構余裕がある。それを払えないほど貧乏か?というと、そんなこともない。
そんなわけで彼女の意見に誰も異論はなく、札幌駅近くのホテルを取って千歳で車を返し、新千歳空港から札幌へ電車で移動することに。
実際、この判断は正解でした。想定外の局面において、別の視点を持てる人がいると本当に助かります。
想定外の札幌を楽しむ
さて、そんな想定外の局面における札幌駅。
札幌の街は好きなので、ちょっと嬉しくもあり。
チェックインした後は自由行動ということで、僕は希望者を募って近場へ買い出しと夕飯に行くことにした。
駅直結のユニクロで着替えを仕入れ、地下街の居酒屋へ。
帆立バターが美味かった。
部屋に帰ると、数十時間ぶりのひとりの時間。二人宿泊もぎりぎり可能かなというセミダブルのベッドに寝転んで、テレビを見たりしつつ鋭気を養った(部屋は狭いけどお風呂は広くて、それも良かった)。
ゆっくり休んで、翌朝。
早起きしたおかげで身支度を終えても集合時間まで時間があったので、少し散歩に出て駅地下のカフェクロワッサンで海老とアボカドのサンドを食べた。
さて、振替便は夕方。ということは、チェックアウトから当面、市内のどこかで過ごさなければならない。出社できないとはいえ平日なので仕事の連絡などもしつつ、時間になるまで駅近郊の観光地を巡ることにしました。
まずは定番の北海道庁旧本庁舎。
前に立ち寄ったのは数年前、祖父の足跡を調べに来た時(祖父は旧建設省の役人だったのですが、一時期、北海道庁にいて樺太にも行っていたので、その手がかりを探しにきた)で、その時は北大近くの受験生向けの安宿に連泊したのを思い出した。
立派な木製の階段。
こういう重厚な階段を上り下りすると背筋が伸びる。
ここは旧庁舎という名前ではあるけれど、今でも一部は実際の執務に使われているから、平日には道庁の職員が普通に出入りしている。そこが良いんだよね。建物は実用してこそ価値がある。
札幌市時計台(旧札幌農学校演武場)。
がっかりスポットなどと云われることもあるけれど、僕は大時計の仕組みが見られる屋根裏の雰囲気がとても好き。今回は中には入らなかったけど、ちょうど正午の鐘を聞くことができた。
さっぽろテレビ塔。
展望室の狭さと中途半端な高さがめちゃくちゃ怖い、僕にとっての鬼門スポット。なんだけど、グループ旅なので当然のように登ることになりました。
いやほんと、こんなに怖いタワーは他にない。東京タワーより、スカリツリーより断然怖い。生きた心地がしない。
ただ、ここに登ったおかげで大通公園で開催中の大規模な食フェスの全貌が見え、降りたら行ってみようということに。
あと、登るとソフトクリームの割引券をくれるので、降りた後でメロンソフトを食べました。
さっぽろオータムフェスト開催中の大通公園。
タピオカチーズミルクティー。
上の白い部分がクリームチーズと生クリームの混合体という、にわかには信じられない台湾生まれの飲み物。プリンティーとかチーズティーとか、あの国は本当にアメイジングジャパン顔負けに狂ってる(大好き)。
ご当地ラーメン、牡蠣の燻製、ザンギなどなど。
削り苺、飲むメロン、食べるメロン。
ドライトマトとチーズとオリーブオイルの何か。
どんだけ食べるんだよ、とお思いでしょうが、常に電話が取れて駅にアクセス可能で座るところがあって、となると、ひたすらここで飲み食いするくらいしかないんですって。いや、本当に。
それでも、もうそろそろ夕方。
荷物をまとめて空港に向かおうか、そう話していた時。スマホをいじっていたメンバーから「ウソでしょ!?」という悲鳴が──。
二度あることは三度ある。陸路で東京へ
嘘だろ‥‥おい‥‥。
東京の天候はとっくに回復しているけれど、欠航続きで機材調達(飛行機のやりくり)ができないということらしい。
さすがに真顔になりました。
一日ならまあ不幸な話で済むけれど、さすがに二日も穴を開けて平気なほど暇な職場ではありません。しかもこの企画のメンツは部門横断で集った有志なので、明日も出られないとなると上長やお客様など各方面への連絡だけでも大変。
なんとかして、陸路でも帰ろう。全員がそう決意し、知恵を絞っての検索タイム。
ところが、陸路で東京を目指すとなれば総移動距離は1,130kmあまり。特急と新幹線だけを乗り継いでも8時間以上かかります。
今夜中に着くための終電の出発時刻は既に過ぎており、明日の始発ではもちろん間に合わない。途中で宿泊を挟むルートでも、最短の到着が午前11時過ぎ。これでは遅い。
じゃあ車では?
ぶっ通しで走っても16時間。論外。
うーん‥‥となったその時。
「あ、これいけるかもしれないです」
そう呟いたのは、Yahoo!で路線検索していたという同僚。
それによると、これから特急で函館に行き、そこから新幹線で青函トンネルを超えて青森に向かい、そこで一泊し、翌朝の始発の新幹線で東京に向かうと、ぎりぎり始業に間に合うらしい。
しかし新幹線の止まる新青森駅の近辺を探しても宿泊できる場所がまるでなく、どうやら青森駅まで行かなくてはならない様子。
まずは駅に行って切符が手配できるかどうかを確かめようということに。
なんで他の乗換案内サービスでこのプランが出なかったのか後で検証したのですが、どうも一般的なルート探索のロジックでは、路線の区切り駅でのみ次の電車を探すような処理になっているようです。
ちょっと言葉で説明するのは難しいのですが、今回のように日を跨いで移動したい場合、新幹線への乗り換え駅である新函館北斗に終電で着いて、始発の新幹線に乗り換えるというプランしか出てこない。
一方のYahoo!の探索ロジックは、とにかく途中まででも行けるとこまで行って、翌朝その続きに乗る(今回で言えば函館から新幹線で青森まで行って、翌朝また残りの新幹線に乗る)という選択肢が出ました。これによって、お金は余計にかかるけど到達時刻が2時間以上早まったわけです。
いざという時、この違いは結構大きいと思うので覚えておくと役に立つかも。
札幌駅、みどりの窓口。
窓口の方に聞いたところ、確かにプランとしては実行可能であり、空席もあることが判明。
そこで、航空券はキャンセルし、札幌⇒青森の乗車券、特急券、新幹線特急券、翌朝の青森⇒東京の乗車券、新幹線特急券を人数分お願いしました。
やれやれ、これでなんとか帰れる。出費は痛い(航空券の倍以上!)けど仕方がない。
と思っていた時、窓口の方が呟きました。
「いや待てよ、このルートなら、乗車券は札幌⇒東京までの乗車券を発券し、そこから外れる新青森⇒青森の往復分を別に買った方が安い。すぐに払い戻しますから、そちらで発券し直しましょう」
そう言って電卓をパチパチすると、僕らに見せてくれました。確かに、一人あたり3000円以上安い。
カラクリはこうです。
今のような高速鉄道が整備される前から存在する乗車券は、移動距離に応じて有効期間が延びるよう設定されており、札幌から東京ともなると6日間くらいは使えるものになる。
そして、100km以上乗車の場合、複数日にわたる移動が前提であるため、行き先に書かれた駅やエリアに着くまでなら何度でも途中下車ができる。
さらに、乗車ルートが一筆書きにならない場合でも、一筆書きから外れる分の往復分を別の切符で持っていれば良いというルールがある。
鉄道旅行が好きな方には当たり前の知識かもしれないけど、僕らは誰も知らなかった。
ただ、これを実現するには、それなりに複雑な切符の運用が必要になります。
受け取る切符は下記の6枚。
- 札幌市内から東京都内までの乗車券
- 新青森から青森までの乗車券
- 青森から新青森までの乗車券
- 札幌から新函館北斗までの特急券
- 新函館北斗から新青森までの新幹線特急券
- 新青森から東京までの新幹線特急券
これを以下のように運用します。
- 札幌駅で1を入れて入場
- 新函館北斗駅で1と4と5を入れ、1と5を受け取って乗り換え
- 新青森駅の有人改札で1と2と5を見せ、1を渡さず、1と2を受け取って乗り換え
- 青森駅で2を入れて退場
- 翌朝、青森駅で3を入れて入場
- 新青森駅の有人改札で1と3と6を見せ、1と6を受け取って入場
- 東京駅で1と6を入れ、1を受けとって乗り換え
- 最後に残った1で最寄り駅まで移動して退場
ポイントは1の乗車券を絶対に最後まで渡さないこと(「途中の退場時に自動改札に入れないように」と窓口の方に言われました)で、あとはそんなに間違える要素はないのですが、念のため全ての切符に番号を振り、上記の手順をメモして、つど確認しながら対応することにしました。一人でも間違えたら大変だからね、完全に仕事モード。
ともあれ青森に着くのは深夜なので、改札をくぐる前に翌日出社分の着替えと夕飯となる弁当を調達。
前日はユニクロでTシャツを買いましたが、この日はGUに。
ジ・エクソシスト!お値段なんと300円!
こんなの着て職場に行くとか完全にイカレているけど、幸い、僕は翌日に外部との打ち合わせが入ってなかったので、中途半端にそれっぽい服を着ているより「どうした!?」って思ってもらえた方がその後の説明に繋げやすいという判断です。
夕飯のお弁当はかにめし。
北海道の白葡萄ソーダに余市りんごとハスカップのグミ。
かなり悲惨な状況ではあるけれど、旅を楽しむ心だけは最後まで忘れないという決意の証。
さて、札幌から新函館北斗まではスーパー北斗で約3時間半。移動距離にして約300km。
ブロロロロロというディーゼル機関の音が旅情をそそる。
駅をひとつ過ぎるごとに乗客は一人、また一人と減っていき、深夜というわけでもないのに駅間の車窓は灯ひとつない真っ暗闇。どこを走っているのか、あるいは走っていなかったとしてもわかりません。
そんな時、声を絞ったアナウンス。
「まもなく、森‥‥。森です‥‥」
森?それって‥‥どこの森‥‥?
なんとなく、千と千尋の海原電鉄のイメージが頭をよぎってゾッとしたのは嘘ではありません。なんせ疲れてますし。
そんな心配をよそに特急は新函館北斗駅に到着。
函館に来たのはこれが人生初。まさかこんな形で立ち寄ることになろうとは。
ハァ〜るばる〜きたぜ(しん)は〜こだて〜!!
— kazh (@kazhomely) 2019年9月9日
食べたいものもある、逢いたい人もいる。しかし滞在時間は約15分!すまん!また来る! pic.twitter.com/cWPN51sLnq
さて、青森新幹線に乗り換えると、今度は初めての青函トンネル。
なんとなく海っぺりでヒュッとトンネルに入るイメージがあったんですが、まあそんなわけないよね。
全長53.8kmで海底部が23.3kmしかないということは、残りの約30kmは陸上のトンネルなわけで、そもそも外は真っ暗で何も見えないしわからない。
まあでも、青函トンネルの開発物語は子供の頃から読んでいたし、ブラタモリやらシンカリオンやらで青函トンネルの話を見た後だったので、やっぱり感慨深くはありました。
メンバーの一人が津軽海峡冬景色を歌い出して、思わず笑った。完全に向きが逆です。でも気持ちはわかる。
そんなこんなで新青森に着いたのが23時。
渡しちゃいけない切符を大事に握りしめ、青森駅までのローカル線(奥羽本線)への乗り換えにも無事成功。
あおもり〜えきはゆきのなか〜、ではなかったけど、灯りの落ちた青森の街を歩いてホテルを目指す。
午前23時半、ホテル着。明日は4時半に起きて出発なので、もう5時間しかない。
ここで、少しでも長く眠るため青森⇒新青森の切符は捨てて、朝はタクシーを呼んでもらうことに。夜食を食べてすぐに横になる。
考えてみれば、初日は朝の飛行機に乗るために4時起き、二日目も「雲海」を見るために4時起き。ゆっくり寝られたのは昨日だけで、明日もまた4時起きで準備して職場直行。こんなにハードな旅行もなかなかないな、と、笑いがこみ上げた。
翌朝。予定通り起きてタクシーに乗り、朝陽を浴びながら新青森駅に直行。
駅に着くと、ホームには念願の東京行き新幹線が。
これで‥‥帰れる‥‥!
「東京」という字を見るだけでこんなにホッとすることがあるとは。
どう見ても部屋着な気がするタオル地のワンピースを着た隣の席の同僚と、エクソシストのTシャツを着た自分。他のメンバーもみんな、テンションも服装もどこかいろいろおかしくて可笑しかった。
車内では思い思いに朝食を採ったり眠ったり。
午前9時前。無事に東京駅に到着。
最寄り駅まで移動した後、最後の改札で二日間旅を共にした相棒(乗車券)に別れを告げて、ついに“一泊二日北海道の旅”・完。
なんにせよ、全員無事に帰ってこられて良かった。
ありがとうトマム、ありがとう北海道。
ちなみに大きすぎると思っていた登山リュックの中は、四日間ためこんだ着替えとお土産と土産話でいっぱいだったとさ。めでたし、めでたし。