真夜中に魯肉飯と花枝丸を作った話

僕はどうも社交的な人間だと誤解されることが多いのだけど、実際はどうにもならないコミュ障である。

知ってる人には「あんなにペラペラよくしゃべるやつがそんなわけあるか」とツッコまれるかもしれない。確かに僕は子供の頃からおしゃべりだったし、今でもそうだ。父も母もその親族も皆よく話す人だったので、順当にそれを受け継いだのだと思う。
ただ、話せるからといってそれが本意かどうかはまた別だ。幼い頃から自分の言葉が思った通りに伝わらず、誤解されて相手を傷つけたり、嫌われたり、そういうことがあって、出来ればきちんと言葉を選んで話したいと思い続けている。自分の気持ちを正しく嘘無く伝えつつ相手も傷つけない言葉を選択するのは、僕にとってあまり簡単なことではない。リアクション下手なのが辛くてすぐ自分の話に逃げてしまうし、真剣に話している時には咄嗟に言葉を選べず返す言葉を失い、焦れば本意でない言葉が口をつく。本質的にコミュニケーションというものが苦手なのだ。

そして、それは海外の人を前にするとより顕著になる。ヒアリングが苦手な上、失礼のないよう振る舞わなければならないとやたらに気負って余計に話せなくなる。自分でも呆れて笑うしかないが、海外ではただ「これください」というのも内心ひと苦労だ。

逆に言えば、それでも自分から話しかけた時は余程のことである。
例えば、台湾夜市での魯肉飯がそれだった。

f:id:kazhomely:20180409224901j:plain

人でごった返す夜市でひときわ安い魯肉飯の看板を見つけた僕は、どうしてもそれを食べてみたくなった。妻に訊くと「私はいい。食べてくれば」と言う。中国語を少し話せる妻が一緒に食べてくれれば有難かったのだけど仕方がない。勇気を出してひとり地元客に混じって屋台の席に着き、注文した。
メニューを指さしながら「這個(これ)」と言った時、店の親父さんは一瞬何かを言いかけて、まあいいやというような顔をした。ん?通じなかったのかな?と思ったけれど、親父さんが調理スペースに引っ込んだので、とりあえずおとしなく待っていた。
魯肉飯は要するに煮込み肉のぶっかけ飯なので、日本で言えば牛丼のようなもの。あっという間に出てくる。
親父さんはすぐこちらに戻ってきて、僕の目の前にとてもとても小さな茶碗をぽん、と置いた。それを見て、僕はようやく親父さんがさっき何を言おうとしていたか理解できた。つまり魯肉飯はサイドメニューであって、僕は「ラーメン屋に入って半ライスだけを注文する」ような事をしたわけだ。せっかく地元民に混じって地元料理を食べようとしていたのに、外国人まる出しでなんだか悔しい。
だけど、出された魯肉飯を一口食べたら、そんなことはどうでもよくなった。トロトロに煮込まれた豚肉、エスニックな香り、甘辛い味付け。その全てが好みで、すっかり心を掴まれた。これをどんぶり一杯食べたい!と思った。
ところが、そのあと行った店ではどこも魯肉飯は小さな器で出てくるサイドメニューで、それだけをお腹いっぱい食べさせてくれる店にはついぞ出会えなかった。
そうしてモヤモヤを抱えたまま帰国した。

f:id:kazhomely:20180409230620j:plain帰国前に違う店で食べた魯肉飯。箸袋に「おてもと」と書いてあるが台湾の店である。

それ以来、僕は一定の周期で「魯肉飯食べたい病」になる。そうなるともう魯肉飯以外のものは食べたくない。だが、なかなか見つからない。魯肉飯を出している店自体は見つかるのだけど、行って食べてみると何かが違う。どこの魯肉飯もなんだか綺麗すぎて、吉野家の牛丼を注文したら今半のすき焼き弁当が出てきたくらいにコレジャナイ。
いてもたってもいられなくなって、いよいよ自分で作るようになった。

一口に魯肉飯といっても作り方には地域差があるようで、挽肉で作る物からしっかりした角煮風のものまでレシピはわりと幅広い。
僕が求めているのは、1センチ角くらいの蕩けた豚肉がのった屋台の魯肉飯だ。
そこで、いくつかのレシピを参考にして自分なりにアレンジしている。

最近知ったこんなサイトがあり、ここにはいろんな魯肉飯が出ているので興味のある方は是非覗いてみて欲しい。

先日も、突然また魯肉飯を食べたくなった。

魯肉飯づくりで一番ネックになるのは油葱酥。
油葱酥というのは、シャロット(=仏名エシャロット。よく混同される若採りらっきょうのエシャレットではない)を揚げたもので、魯肉飯には欠かせない食材なのだが、一般的にはなかなか手に入らない。たいがいのレシピではフライドオニオンで代用可と書かれているけど、ちゃんと作るならやっぱり油葱酥が欲しい。
それこそ自分で作るか中華街にでも行くしかないかなと思っていたら、去年、池袋北口に中国食材店を見つけた。

24時間営業の路面店「陽光城」と、その向かいの雑居ビルの中にある「友誼商店」。

f:id:kazhomely:20180409224408j:plain

f:id:kazhomely:20180409224457j:plain

「陽光城」は狭い店だが味付けされた肉や乾物類など手軽に食べられるものが充実している。日によっては外でむき出しの豚骨や廃鶏を売っていることも。

f:id:kazhomely:20180409224447j:plain
f:id:kazhomely:20180409224750j:plain

対する「友誼商店」は比較的広いスーパーマーケット。冷凍肉、海産物、調味料、乾物、点心まで何でも揃う。唐辛子や花椒、陳皮、茴香など香辛料の品揃えも豊富だし、豆腐干や加工肉、油条や饅頭、花巻など思いつくものはだいたいある。金華火腿も売っている。

f:id:kazhomely:20180409224625j:plain
f:id:kazhomely:20180409224601j:plain
f:id:kazhomely:20180409224552j:plain
f:id:kazhomely:20180409224615j:plain

この2件を周って、中国料理、台湾料理に必要な食材や調味料で見つからなかった物は今のところ無い。豚モツ、牛モツ、生きた鯉や鹿肉すら常備されている。青花椒や朝天椒もここで買った。僕にとってはパラダイスだ。

どちらの店も飲食店が併設されている(陽光城は上のフロア、友誼商店は同じフロアにある)ので、それ目当てで来ても良いと思う。

件の油葱酥だって、ここでは簡単に見つかる。

f:id:kazhomely:20180409224935j:plainフライド・シャロッツ・スライスド。なんだか格好良い。

これを使って、仕事終わりの真夜中に魯肉飯作りを開始した。

f:id:kazhomely:20180409224915j:plain

まずは豚バラブロックを厚さ1センチに切る。本当はさらに1センチ角にする方が好みだけど、疲れていたので割愛した。

f:id:kazhomely:20180409224925j:plain

戻した干し椎茸も刻んでおく。

f:id:kazhomely:20180409224955j:plain

臭みを消すために豚肉を軽く炒めて、油葱酥やら八角やらもろもろ投入。

f:id:kazhomely:20180409224945j:plain

f:id:kazhomely:20180409225005j:plain

調味料を入れ、蓋をして最低40分煮込む。

f:id:kazhomely:20180409225019j:plain

f:id:kazhomely:20180409225030j:plain

あとはおとなしく待っていれば良かったのだけど、せっかく台湾気分を味合うのだからと、よせばいいのにロールイカを解凍してしまった。同じ台湾料理で花枝丸というイカ団子がある。これも好きなのだ。

f:id:kazhomely:20180410001236j:plain

花枝丸の作り方は簡単。イカのすり身を作って、塩胡椒と片栗粉を混ぜて揚げるだけ。ところがざっくり切ったイカをフードプロセッサーに放り込んでスイッチを入れたら、急に素っ頓狂な音を出した後うんともすんとも言わなくなってしまった。どうやら解凍されたイカ(たぶんアカイカ)の粘度に使い古したモーターが耐えきれなかったらしい。

仕方がないのですり鉢で擦ってみたけど、そんな程度でどうにかなるほどイカの身は甘くない。

f:id:kazhomely:20180409225040j:plain

まあでも、とにかく団子状になりさえすれば良いので、包丁で刻んだりして無理やり形を整えた。

f:id:kazhomely:20180409225055j:plain

もう23時を回っていたので、手早く熱した油の中へゴー。家中にイカの香ばしい香りが立ちこめる。

f:id:kazhomely:20180409225105j:plain

魯肉飯も炊き上がって、ようやく完成。

f:id:kazhomely:20180409225118j:plain

そして実食。友誼商店で買った元気いっぱいの香菜をのせて、懐かしの魯肉飯と花枝丸。花枝丸の方には、生春巻きなんかにつけるスイートチリソースと、素青椒という青唐辛子とニンニクなどで出来た調味料を添えた。

f:id:kazhomely:20180409225132j:plain

f:id:kazhomely:20180409225151j:plain

f:id:kazhomely:20180409225141j:plain

まあ美味い。魯肉飯は寸胴でじっくりたくさん作った方が美味しいのだろうけど、平日の家でこれが食べられるなら満足かな。欲を言うならもう少し薄味にしてドロドロになるまで煮込みたい。逆に花枝丸はこのくらいの粗挽きの方がむしろ正解なのかもしれない。ふわっとした食感と程良い歯ごたえが美味かった。

食べているうちにいろいろ思い出して、また台湾に行きたくなった。
そんなある日の深夜食堂。

f:id:kazhomely:20180409224851j:plain

 

新商品中華漬物 吉香居素青椒 惣菜 240g 冷凍便の発送はできません。

新商品中華漬物 吉香居素青椒 惣菜 240g 冷凍便の発送はできません。