あけましておめでとうございます。
なんやかやとバタバタしておりましたがようやく少し落ち着きました。本年も何卒よろしくお願いいたします。
さて、もう去年の話になってしまったけれど、何かと「平成最後の」が枕詞になった年の瀬、いよいよ『平成最後のクリスマス』がやってきたわけで。
僕の生まれ育った家はクリスマスに興味の無い家庭だったので平成どころか昭和にすらこれといった思い出はないのだけれど、友人や親族の家で経験した幼少期のクリスマスは、お父さんが仕事帰りに不二家のケーキとフライドチキンを買ってくるプレゼント付きのお楽しみ会というイメージだったことを思い出した。
最近、子供向けのアニメでも取り上げられて一部で話題になっていたが、クリスマスといえば山下達郎という時代だった。
この時代、泡銭を持っていたオトナたちは躍起になって高騰したホテルのレストランや部屋を予約し、意中の相手を口説いて一夜を過ごす、なんて流行もあったようだ。何日を誰と過ごすか、どれだけ高いプレゼントを何人から受け取るかといった下世話な話題もよく耳にした。
それに比べると、今は信仰の有無に関わらず、季節行事の一環としてリースやツリーを丁寧に準備する人が増え、親しい人とちょっとしたご馳走を食べに行ったり、家族とのんびり過ごしたり、ずいぶん落ち着いた行事として定着したように思う。
──時は平成元年。
12月23日に思いがけない祝日が誕生した。
これにより、人々は無理に予定をやりくりして24日や25日に誰かと会う必要はなくなった。クリスマス・イブイブなんて言葉が生まれ、焦燥感を煽る世間の風潮に流されず、好きなものを食べて思い思いに季節感を楽しめば良いという層が徐々に広がっていった。
そうしてクリスマスは、経済を動かすお祭り騒ぎから、身近な人と過ごす生活の中の行事へと変化した。
なんて、専門家でもない僕には本当のところは何もわからないけれど、国家神道のトップである天皇の誕生日がクリスマスを家庭の文化として定着させたのだとしたら、と想像すると、なんだか面白い。特に今上陛下は生活や家族というものを大切にされてきた印象があるので、そんなのもなんとなく平成らしい気がする。
だから『平成最後のクリスマスイブ』が天皇誕生日の振替休日となったことも、ちょっとした巡り合わせのような気がした。
そんな今回のクリスマスにはとある目標があり、めずらしく1ヶ月以上前からメニューを練っていた。
そのテーマとは、脱ローストチキン。
これまで、クリスマスの料理メニューに悩んだ時はいつもローストチキンに頼ってきた。ケンタッキーを買って済ますよりはまだしも本格的な気がするし、手軽なわりに見栄えもいいので、ほぼ毎年、買うなり焼くなりしてきた。
でも七面鳥とかならともかく、ブロイラーの鶏肉は普段から毎日のように食べていて、それ自体がご馳走という感じはしない。逆に美味しい鶏肉が手に入るなら、スープにするか炭火で焼いて柚子胡椒でも添える方が本当はよほど好みなのだ。要するに積極的に食べたいわけでもないのに惰性で作っていただけだと気づいたので、思い切ってやめることにした。
しかし、惰性とは無いよりマシだからそこにあるわけで、敢えて振り切るとなれば、普段使わない頭を働かせなければならなくなるものである。
さて、自炊料理としてそれなりに特別感があって、クリスマスに合う肉料理とはなんだろう。
ラムとか鴨とかいくつか候補を挙げては却下を繰り返し、最終的にパテ・ド・カンパーニュを作ることにした。
パテ・ド・カンパーニュ、通称パテカンは豚のいろいろな部位がゴロゴロ入った手作りの無燻製ハムのようなもの。腹持ちがよくつまみにもなるので、個人的にはお店で見つけると昼夕食問わず嬉しくなるメニューのひとつだ。最近はInstagramあたりでパテカンの自作が流行っているとも聞くけど、僕はその辺の流行はよく分からない。
一般的にはレバーやタンを使うことが多く、それこそが美味しさの秘訣だと思う。ただ、コクと肉感が強く満足感がある分、そんなにたくさんは食べられない。今回はクリスマスで他の料理も出すので、敢えてレバーもタンも使わないことに決めた。
近所の精肉卸の業者がたまに直売会をするので、そこで買っておいた豚のカシラ。
肉のハナマサで見つけたチグチ(喉の奥の肉。ノドガシラとかノドモトとも)。
これらに豚挽肉を加えて、豚100%でありながら手間をかけず臭みを最小限に、肉の旨味と食感を楽しめるパテを目指すことにした。チグチを見た時に頭に浮かんだのが軟骨入りの鶏つくねだったので、パテカンの名を借りた洋風豚つくねと言っても過言ではないかもしれない。
まずはとにかく全部ミンチにする。測ってはいなかったけど、割合はカシラ4、チグチ4、挽肉2くらい。チグチは固すぎて、先に包丁で細かくしないとフードプロセッサーが回らなかった。みじん切りにした玉葱1/2玉も加える。
欠かせないのは刻んだ生パセリ。ざっと2枝分くらいだろうか。これがあるとないでは残る臭みが全然違うと思う。クリスマスなので、ケーキ作りで余らせがちな生クリームも100mlほど加えた。
ハーブソルトを強めに振って、ハンバーグのように練り合わせる。
型にみっちりとベーコンを敷く。本当は網脂が欲しかったのだけど、簡単には見つからなかったのでベーコンで代用。
練ったタネを容器に流して空気を抜く。
上側もベーコンで蓋をしてアルミホイルをかぶせ、お湯を張った耐熱容器に型ごと入れてオーブンへ。
我が家には一般的なテリーヌ型より大きいパウンドケーキの型しかないので、余熱あり160℃で約80分、長めに湯煎焼きした。
焼き上がったら串を刺して内部温度を確かめ、肉汁の色を見る。実際のところ火が通っているかは冷やして切ってみるまでわからないのでドキドキするが、覚悟を決めたら早めに粗熱を取って冷蔵庫に入れて一晩以上置く。つまりパテ・ド・カンパーニュをクリスマスに食べるには、前日までにここまで終わらせておく必要があるということ。
面倒ともいえるけど、逆に当日の手間が省けるという意味では優れたパーティ料理だ。切ってラップして冷凍すれば数ヶ月は保つので、いざという時の作り置きにもなる。
さて、パテカンが出来たので、24日はゆるゆると他の料理を作った。
安かったカリフラワーで作ったポタージュ。
買って盛り付けただけのスモークサーモン。
前に料理会で出して評判の良かった白葡萄とアプリコット入りクリームチーズのサラダ。料理会ではシャインマスカットを使ったけど、家では普通のトンプソンシードレス。安上がりだ。
鴨の胸肉と腿肉のグリル。ソースはバルサミコとメランジェ・ド・フルーツ。もっと赤く仕上げたかったけど、幼児がいるので安全を優先した。予め分けて焼けば良かった。
そしてパテ・ド・カンパーニュ。
これが想像以上に美味かった。あふれ出る肉汁と脂、カシラ肉のコク、チグチの歯応えのバランスが思ったより良く、今まで食べた中の上位5位くらいには入れても良さそうな感じだった。まあビギナーズラックかもしれないし、自分で作ったので自分好みなのは当たり前なのだけど。
カシラとチグチをまた入手したら自分のためにレシピ化しておいても良いかもしれない。
ちなみにクリスマスケーキは、市販のスポンジとチョコレートホイップを使ってお手軽チョコケーキを作った。
中のホイップにグランマルニエとうめはらのオレンジピールを加えてあるのが特徴だが、言うほどたいしたものではない。飾り付けも適当だ。
お菓子作りは苦手で大変疲れるので、今年はパテカンに専念するために手を抜いた。
そんなこんなで平成最後のクリスマスの夜。
さて、深夜に良い子のもとを訪れるというサンタクロースだが、昨年、息子宛てのプレゼントが部屋に置かれていたところ、知らない人が知らないうちに部屋に侵入したと重大なセキュリティ問題に発展し、朝から恐怖に泣き喚く息子に詰られるという事態になったため、今年はあらかじめサンタと相談して玄関の外にプレゼントを下げてもらうことになった。
リビングにお菓子とお茶を置いて、翌朝減っているのを楽しめるようになるのは、果たしていつのことだろう。